【最新ハイテク講座】GPSって、なぜ位置がわかるのか?


現代人の足である自動車にすっかり定着したのがカーナビゲーションシステム(以下、カーナビと略記)だ。自家用車だけでなく、タクシーや配送車などの商用車にももはや必要な装置となっている。

カーナビは、出発地と目的地を入力するだけで、現在位置と目的地までのルートを教えてくれる便利な装置だ。これさえあれば、車内で地図を広げて悩むことも、一度も行ったことのない場所でも悩まずに到着することができる。

ご存じの方も多いと思われるが、カーナビは「GPS(ジーピーエス)」と呼ばれる技術により人工衛星を利用して自分の位置情報を得ているわけだが、GPSはカーナビだけでなくケータイにも搭載されるなど一般の社会に浸透し始めている。さらに最近では、GPSの位置情報と各種の店鋪などの情報を連携したサービスや、オンラインの世界地図「Google Maps」に移動した軌跡を表示できるサービスなども提供されるようになっている。

知らない間に身近で利用されはじめているGPSだが、「人工衛星を利用している」ということはわかっていても、どういう仕組みで位置が特定できるのかを知っている人は少ないだろう。そこで今回は、GPSのハイテク技術をのぞいてみよう。


■GPSって、そもそもなに?
GPSとは、Global Positioning Systemの略称で、全地球測位システムまたは汎地球測位システムとも言われる。
人工衛星を利用して現在位置を正確に割り出すシステムで、もともとは米国が軍事用に開発した技術であり、航空機の航法やミサイルのピンポイント爆撃で目的対象の位置を正確に取得するための技術だ。

GPSは、地球の周回軌道上にある人工衛星から発進される電波をGPS受信機で受信し、数cmから数十mの誤差で緯度や経度、高度などを特定できる。

当初、民生用GPSでは人工衛星からの信号に精度を下げるための仕掛け(スクランブル)が施されているため、精度が36m程度に制限されていたが、現在では紛争地域を除いてスクランブルは解除され、誤差は数メートルまでになっている。ちなみに軍事用のGPS信号は、暗号化されているため米軍にしか利用できない。

■GPSの原理
GPS受信機は、複数の人工衛星からの電波を受信することで、地球上での現在位置を割り出している。もう少し詳しく説明しよう。

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で解説したように、「距離=速度×時間」と表記できる。電波は光と同じ速度(cとあらわす)※で、人工衛星から電波が発射されてGPS受信機までに要した時間をTとすれば、GPS受信機と人工衛星の間の距離rは、下記のように表される。
※およそ秒速30万km(3×10の8乗m)

r=cT

r:距離
c:電波の速度
T:人工衛星から電波が発射されてGPS受信機までに要した時間

GPS受信機が2つの人工衛星を捉えた場合、円が重なる地点は2箇所存在するため、ユーザーの位置は割り出せない。3つの人工衛星を捉えると、円が重なる地点は1箇所なので、ユーザーの位置が特定できるというわけだ。さらに4つの人工衛星をとらえれば、海抜ゼロメートルからの高さを得られるので、高度まで求めることができる。
図1 GPS測位の原理
図1 GPS測位の原理

GPSでは、「r=cT」という数式より、正確な時刻を得ることがもっとも重要だ。GPS衛星は正確な時刻を得るため、安定度が極めて高く正確に時を刻めるルビジウム(Rb)やセシウム(Cs)を用いた原子時計を備えている。GPS衛星から受信する電波には正確な時刻まで含まれているので、GPS受信機の内蔵時計はクォーツ時計程度の精度しかないのだ。


■GPSの民間での利用法
民間では、GPSは船舶や航空機の航法支援の設備として使用されるほか、次のような目的に使用される。

●カーナビゲーション
現在の位置を画面上に表示し、出発地から目的地までのルートを表示する。最近のカーナビでは、地図情報に加えて電話番号による位置検索情報やレストランなどのタウンガイドを含むGIS情報※も内蔵しており、ハードディスクやメモリーカードに情報を保存できる。
※地理情報システム。地図上に様々な情報を表示することで、情報の地理特性を得られる

●GPSケータイ
歩行者向けのナビゲーションとして使用される。ナビゲーション以外にも児童誘拐や徘徊老人対策などの防犯用途への期待が広がっている。

●パソコン用GPS
パソコンで地図ソフトを使用することで、カーナビのような使い方ができる。

●登山用GPS
正確な地図と併用して使用する。GPS端末には、トラッキング(移動経路)を記録する機能を持つものが多く、あとで登山ルートを確認することができる。


■GPSが抱える問題
運営を米国防総省が握っているGPSでは、米国の思惑ひとつでサービスの精度を低下させたり、中断されることができるため各国は独自の対策を模索している。

●ガリレオ - EU
欧州共同体 (EU)は、「ガリレオ」と呼ばれる独自の衛星測位システムを進行中だ。民間主体での初めてのシステムで、高度約2万4,000kmの上空に30基の人工衛星を打ち上げる計画を発表している。利用は有料となるので、現在のGPSから乗り換える利用者の獲得が目下の課題となっている。EU諸国以外では、中国、韓国、イスラエル、ウクライナ、インド、モロッコ、サウジアラビアが参加している。

●準天頂衛星システム - 日本
日本は、「準天頂衛星システム」と呼ばれる衛星測位システムを計画している。常に1機の人工衛星が天頂付近に見えるように配置するため、ビルや山の影響を受けずに位置測定が可能となる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2009年に準天頂衛星システム初号機を、その後は2015年までに合計3機を打ち上げる。当面は、現行のGPSや欧州のガリレオと合わせて使用する予定だ。


参考
グローバル・ポジショニング・システム(GPS) | ガリレオ (測位システム) | 準天頂衛星システム - ウィキペディア
宇宙航空研究開発機構(JAXA) - 公式サイト
NASA - 公式サイト


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