【世界のモバイル】日本メーカーの活路は海外にあるか? 拡大する世界の携帯電話市場


全世界の携帯電話販売数量は毎年のようにプラス成長を続けている。一方、日本国内では各通信事業者の新しい料金プラン投入に伴い端末の買い控えが起こり、今後はマイナス成長となるという予測がされている。日本市場が主力マーケットである日本メーカーにとっては冬の時代が到来することとなり、活路の1つは海外市場への進出となるだろう。では日本メーカーが海外市場に参入できる余地はあるのだろうか?


■大手5メーカーが市場を独占できる理由
調査会社のガートナーによると、2007年における全世界の携帯電話出荷台数は11億5000万台に達したとのこと。これは2006年の9億9090万台から16%増加したことになる。中国やインドなどの新興市場での販売が好調なことに加え、先進国でもハイエンド端末への買い替え需要も旺盛であり、来年も引き続き販売台数は増加することが予想されている。販売台数におけるシェアは上位5社「Nokia」、「Motorola」、「Samsung」、「Sony Ericsson」、「LG電子」だけで81.4%を占め、6位以下との差は大きく開いている。不振のMotorolaを除き各メーカーとも前年より出荷台数を伸ばしており、今後もこの「5強+その他」という勢力図式はしばらく変わらないだろう。

上位5社はなぜ「その他大勢」を引き離し販売を伸ばすことができているのだろうか? その答えは実は単純だ。各メーカー共に豊富な製品ラインナップを揃えているからである。日本市場のように1メーカーが「9シリーズ、7シリーズ」のように機能で機種を作りわけて年に数機種しか投入しないことに比べ、大手5社は全世界で「多数の多様な」製品を発売している。最低でも毎月1台は新機種を投入しており、日本の「春モデル」「冬モデル」のように通信事業者の販売方針にメーカーが影響されることも無い。メーカーが自ら「出したいときに、出したいタイミングで、出したい製品を出す」これが海外市場の実情なのだ。

たとえばNokiaの好調を語る上で、「Nokiaはローエンド端末を大量に販売している」という声を日本でよく聞く。でははたしてローエンドだけで年間4億台もの端末を販売できるのだろうか? もちろん同社の新興市場向けローエンド端末は世界中どこの国でも安価に販売されているが、その一方でマルチメディア機能やビジネス向けに特化したスマートフォンも先進国を中心に大ヒットを飛ばしているのだ。実際に海外の携帯電話雑誌を見てみるとわかるが、最新サービスのサンプル写真などにはNokiaのハイエンド端末がデモに利用されている。そしてそれらの間を埋めるようにミッドレンジのモデルがあり、音楽携帯、ファッション端末といった豊富なバリエーションを揃えていることがNokiaの強さの秘密なのである。

Nokia同様に、Motorola、Samsung、Sony Ericsson、LG電子も多数の端末を市場に投入しており、ラインナップの幅は広く、機能もローエンドからハイエンドまで揃えている。消費者にとっては選択肢が多く、豊富な新製品は新機種への買換え意欲を大きく促しているのだ。「安い端末がたくさん売れるからシェアが伸びる」といった単純な図式は世界市場ではありえないのである。

■Apple、RIMなど成長への勢いがある振興勢力
同じくガートナーの調査によると、昨年第4四半期には新興勢力の躍進が目だったとある。10位に入った振興勢力はRIM、ZTE、Appleで、この3社のシェアは多くても1%と大手5社には遠く及ばない。しかしターゲットを絞った戦略により今後も成長が見込まれているようだ。

カナダのRIM(Research In Motion)はBlackBerryの市場拡大によりシェア10位入りを果たしている。ビジネスマン向けの垢抜けない端末であったのは遠い昔のことであり、最近では高機能端末"Curve"、スタイリッシュ端末"Pearl"の2本柱が好調だ。また中国のZTEはローコストなCDMA端末を全世界に供給している。自社ブランドは少なく多くはOEM品であり、通信事業者ブランドのエントリーモデルに採用されていることも多い。またデータ通信カードでも一定のシェアを獲得しているようだ。そしてAppleはご存知の通りiPhoneの販路を着々と広げている。iPhoneは1機種2バリエーションしかないが、各国で特定の通信事業者のみと販売契約を結ぶなど、巧みな販売方法を取り入れており、Appleのシェアは今後伸びることはあっても落ち込むことは考えにくいだろう。

日本メーカーが海外に打って出るには、大手メーカーだけではなくこれら振興勢力との熾烈な戦いが待っているわけだ。そのためには日本メーカーも明確な販売戦略を持って海外市場に参入する必要があるが、それは容易なことではない。

■日本のケータイは本当に「高機能」なのか?
2007年の日本の携帯電話販売数は5152万台と過去最高を記録したとのことである(IDC調査)。しかし新しい契約方法の影響もあり、今年以降はマイナスに転じる可能性が示唆されている。また先日携帯電話生産からの撤退を発表した三菱電機のように市場縮小による日本のメーカー数が減少することも懸念されている。

「日本の携帯電話の機能は海外メーカーよりも優れているのだから、海外でも売れる要素は十分にある」という意見も多い。では日本の携帯電話は本当に高機能なのだろうか? 最近の日本の携帯電話のトレンドであるワンセグに関しても、果たして携帯電話でテレビを見る必要はあるのだろうか? またおサイフケータイ機能にしても、プラスチック製のICカードが手軽に購入、残高追加できる環境があれば携帯電話を利用する必要性は低い。むしろ非接触ICカード決済が社会インフラとして普及することの方が先決といえる。液晶サイズにしても海外ではQVGAサイズで困ることは現時点では少ない。

厳しい言い方をすれば日本の携帯電話は、「オーバースペック」「日本以外では優先度の低い機能」を「高機能」と謳っている面もあるのだ。一方で海外のハイエンド端末では一般的なBlutoothや、今やメジャーな存在になっているスマートフォンが搭載する無線LAN機能を日本の携帯電話は標準搭載しているのだろうか? 「日本ではBluetoothは不要だ」というのであれば、それはそのまま「海外ではテレビは不要だ」という意見と同じになる。

もちろん薄いサイズにあらゆる機能を詰め込む技術は日本ならではの優位点であろう。しかし消費者が求めているのは「技術力の高さ」だけではなく、「コストパフォーマンスに見合った」製品なのである。仮に今、日本で販売している端末と同じ機能の製品を海外で販売するとしたら一体いくらで販売できるのだろうか? 通信事業者が一括して大量に端末を買い取ることはヨーロッパやアジア市場では一般的ではない。そのためメーカーはコストに見合った価格を自ら設定する必要がある。たとえばVGA液晶を搭載した日本メーカーの端末を4〜5万円で販売することは難しいだろう。おそらく7万円や10万円など、機能に見合っただけの高い価格になるはずだ。では同程度の機能ながらQVGA液晶の海外メーカーの端末が4万円なら消費者はどちらを選ぶだろうか?

「高機能だから売れる」のであれば、どこのメーカーもコストを無視して高価な端末を開発し市場に投入しているはずだ。またローコスト端末は大手のみならず、中小メーカーも多数の製品を市場に投入しているため日本メーカーが参入する余地は皆無に等しい。「高機能化」を目指すにしても海外で必要とされる機能を搭載し、しかも大手メーカーのハイエンド端末よりもコストパフォーマンスに優れた製品を出さない限り海外で戦っていくことは難しいだろう。日本メーカーの海外進出は、そう容易ではないのだ。

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山根康宏
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