【カオス通信】麻生外相のアニメ文化大使構想を考える


去年の11月に麻生外相が打ち出した「アニメ文化大使」構想。これは日本のポップカルチャーを文化外交に活用しようという試みの一つですが、今のところ世間の反応はパッとしない印象があります。漫画好きの麻生外相の妄言と取られている節もありますが、日本にとってアニメというコンテンツ産業が無視できない存在であることは確かです。

今回はアニメを日本のイメージアップ等に役立てるためにはどうしたら良いか、諸外国で起こった事例を元に色々と考えてみたいと思います。それでは具体的に日本製アニメが他国の政府を動かした例をいくつか挙げてみます。


■<フランス> 〜日本製アニメブームと放送規制〜

『Goldorak(ゴルドラック)』と改題され、フランスで放映(1978〜1979年)された『UFOロボ グレンダイザー』が平均視聴率70%・最高視聴率100%(世代別集計)という驚くべき記録を残す。これをきっかけに日本製アニメが大ブームとなり、数多くの作品が放映されるようになる。この動きを「日本製アニメによる文化侵略」と見たフランス政府は、自国のアニメ産業を守るためにアニメ育成の補助金を出すようになり(1983年)、さらに日本製アニメを含む外国製アニメの放送規制を導入するに至る(1986年)。

その後も『ドラゴンボール』『北斗の拳』『キン肉マン』等が放映され人気を博すが、同時に日本製アニメは残虐であるという批判の声が国内で高まっていく。そして1992年、クオータ制度が導入され、TV放映作品の60%が欧州製、そのうち40%はフランス語のオリジナル作品でなければならないと規定される。結果、この年を境に日本製アニメの放映本数は激減し、本格的な放映再開は1999年の『ポケモン』まで待たなければならなくなった。

■<フィリピン> 〜独裁政権下のボルテスV〜

1978年『超電磁マシーンボルテスV』がフィリピンで放映開始。最高視聴率58%を記録するが、最終回直前にマルコス大統領によって放送禁止宣言が出される。主な理由としては「暴力的な内容が子供に悪影響を与えると、親や教師達から反発をかった」「汚い大人達(悪)を子供達(善)が倒すという反体制的な内容が独裁政権にとって都合が悪かった」などが挙げられる。アキノ革命後の1999年、再放送が行われるとリバイバルブームとなり、最高視聴率40%を記録した。

■<ニュージーランド> 〜ハイテンションのエロパロに拒絶反応〜

『ぷにぷに☆ぽえみぃ(2001年作品・OVA)』がOFLC(映画・文芸分類局:Office of Film & Literature Classification)により「児童ポルノ」の認定を受けて発売禁止となる。なお同国でこれを所有した場合、最高2千ドルの罰金と2年間収監の処罰を受けてしまう。本来この作品は基本的にギャグアニメであり、別にアダルトアニメというわけではない(アダルトアニメ風の演出はある)。

■<中国> 〜自国の文化が描かれないアニメは規制の対象〜

中国政府は国内のアニメ産業保護を目的として、2006年9月1日からゴールデンタイム(17〜20時)における海外アニメの放送を禁止する方針を発表。これは事実上、中国で人気の高い日本製アニメの規制が目的と見られている。ちなみに中国で放映されている海外アニメのうち92%が日本製。

あえてマイナスイメージで捉えられた例を挙げてみましたが、やはりエロ&バイオレンス表現が問題視されるケースが目立ちます。「文化侵略」と言われてしまうのも「日本製アニメ=低俗」という認識が根本原因になっているのは明らか。ただ、色っぽいシーンや激しいアクションシーンが日本製アニメを世界中に広める原動力になったことは事実ですし、そういった部分を排除したら魅力は半減してしまいます。今後は、各国のレイティング(年齢制限)に配慮した作品選び・作品作りがより重要になってくると思われます。

それでは日本製アニメの明るい未来はどこにあるのでしょうか。個人的には、まず日本のアニメ制作の現場にもっとお金が降りてくるような構造改革と、人材育成のための環境作りが急務だと思っています。クオリティの高い面白い作品が生まれなければ、何も始まらないのですから。平均年収が100万円未満のアニメーターが全体の約3割を占めるという状況がなるべく早く改善されることを祈るばかりです。

最後に海外対策の参考資料として、去年友人(某雑誌の編集長)に買って来てもらったアメリカ版・少年ジャンプを見てみます。ジャンプ原作のアニメは世界中で大人気ですからね。

2006年11月発売号の表紙。価格は4.99USドル(約590円)。総ページ数336P(表紙部分含まず)。

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