コミュニケーションフリーのための「カウントフリー」とは何か。ラインが開始したMVNOサービス「LINEモバイル」の発表会をネットワークの中立性や秘匿性とともに解説【レポート】


LINEモバイルが仕掛ける「カウントフリー」について考えてみた!

既報の通り、LINE Crop.は5日、NTTドコモ回線を用いた仮想移動体通信事業者(MVNO)による携帯電話サービス「LINEモバイル」を2016年9月5日(月)より提供開始したと発表しました。まずはソフトローンチとして限定2万契約限定で先行提供し、すでに申込受付を開始しています。本ローンチは10月1日を予定。

LINEモバイルは同社が100%出資する子会社を設立して運営され、今年2月に設立されて以来、通信業界内でもMVNOへの参入時期がいつになるのか注目されていました。現在のMVNO市場はレッドオーシャンとも呼べる激戦状態となっており、これまでのような単純な安さだけを売りにした戦略はもはや通用しなくなりつつあります。

そこで各社では自社のブランド力や販売網、グループ会社との連携などを強みにサービスの拡充や豊富な端末ラインナップを売りにするなど独自色を強めてきていますが、今回のLINEモバイルもまた「カウントフリー」というLINEを提供しているところらしいサービス施策を打ち出してきました。

具体的な料金プランやサービスの詳細などはすでに公開している記事で詳しく紹介していますので、今回は発表会の模様とともに「カウントフリー」とそれに伴い「ネットワークの中立性」についての解説、そして、LINEモバイルの狙う市場についての考察などを中心にご紹介したいと思います。

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「何か×FREE」をキーワードにしたLINEモバイル


■「コミュニケーションフリー」という発想
「ユーザーニーズ+αを提案していきたい」。発表会冒頭でそう切り出したのはLINE Corp.のCSMO(Chief Strategy & Marketing Officer)を務める舛田淳氏。同氏はLINEモバイルの特徴として「コミュニケーションフリー」を掲げ、現在急速に成長しているMVNO市場にユーザーが求めている廉価性だけではなく、その先の利便性やさらなる快適性を提供したいと意気込みます。

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まず発表会に登壇した舛田淳氏


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日本のスマートフォン(スマホ)普及率はまだまだ低い。舛田氏は語気を強くして「もっと伸ばせる」と語る


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フィーチャーフォン(従来型携帯電話、いわゆる「ガラケー」)やMVNOでのスマホと比べ、MNOによるスマホの月額利用料金の高さが際立つ

コミュニケーションフリーを掲げる根拠としてスクリーンに映し出されたのが2015年におけるスマホアプリの月間アクティブユーザーランキングです。Appleが提供するiOS向けとGoogleが提供するAndroid向けのアプリおよびサービスのそれぞれのランキングが示され、その上位5位以内に必ず「LINE」や「Twitter」、「Facebook」といったコミュニケーション(SNS)アプリがランクインしています。

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いわゆる「SNS」がスマホ利用の中心であることがよく分かる


LINEモバイルはこの点に注目し、コミュニケーションフリーなサービスとして「LINE」と「Twitter」、「Facebook」の3つのSNSで利用する通信料金を無料とする「カウントフリー」を全プランに導入したのです。

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ガラケー時代に「パケ死」と言えばデータ通信の使いすぎからの巨額請求を指したが、今はMNO各社が設定する月間使用量上限に達することを意味する


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それぞれのSNSサービスで使用するデータ通信量はそれほど多くないが、それらを複数利用した場合の合計値は思いのほか大きい


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料金プランはどれもMVNOらしい低価格。これに特定SNSが無料という特典付きであれば非常に魅力的


■「カウントフリー」導入の難しさ
カウントフリーという言葉はモバイル業界やIT業界でもまだまだ認知度の低い言葉です。そもそもこの言葉を頻繁に目にするようになったのは今年7月、ナイアンティックがサービスを開始したスマホ向けゲーム「Pokemon GO」(以下、ポケモンGO)に関連した通信サービスおよび料金プランからです。

ポケモンGOは「ポケモン」という世界でもトップクラスのブランド力を持つゲームおよびそのキャラクターや位置情報サービスとARを駆使した未来的なゲーム性から世界中で大ヒットし、日本でもサービス開始と同時に社会現象を巻き起こすほどとなりました。

このポケモンGOでは頻繁にデータ通信が発生すると見られたため、この点に着目したFREETEL(プラスワン・マーケティング)やb-mobile(日本通信)、DTI(フリービット傘下)などの一部のMVNOがポケモンGOで発生するパケット通信分を無料とする格安SIMを次々と発表しました。

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学生の夏休みに大旋風を巻き起こした「ポケモンGO」

しかしここで思わぬ問題が提起されます。端末による通信を「監視」し、その通信のうちポケモンGOという「特定のアプリケーション」によって発生する使用料金だけを無料化するというのは「通信の秘密」や「ネットワークの中立性」に反するのではないか、というものです。

「通信の秘密」とは、個人や特定の団体および企業による通信の秘匿性を保護する観点から定められている法律であり、「通信の自由」と表裏一体となっているものです。昨今では個人情報保護法などとも深く関連付けられることの多い法律でもあります。

特定のアプリの稼働状況やその通信を監視するという行為はこの通信の秘密に抵触するのではないかという懸念が生まれ、現在でも明確な回答は出ていません。

また「ネットワークの中立性」とは、インターネットプロバイダや国がユーザーやアプリケーション、使用する端末、通信の種類などによって差別もしくは区別をすることなく、インターネット上の全てのデータを平等に扱うべきだとする考え方で、日本や米国などでは法制化こそされていませんがインターネット上の情報を取り扱う機関やIT関連事業者の間では不文律ともなっている考え方です。

ポケモンGOの通信を監視し、その通信のみを無料とする施策は、このネットワークの中立性に反するのではないか――この問題についても議論は続いていますが、まだ答えは出ていません。

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ポケモンGOが世界に投げたものは"モンスターボール"だけではなかった

こういった、言わば「グレーゾーン」とも捉えるべきカウントフリーの導入に対するメディアや各関連業界の反応は、LINEモバイル側も当初より想定していたようで、発表会でも非常に慎重に言葉を選びながら「(日本における)ネットワークの中立性に関するルールについては、ネットワークの混雑に対処する観点から帯域制御のみを対象としており、帯域制御を超える部分については未確定であると認識しています。したがって、当社の提供するカウントフリーは現時点で法令上問題ないものと考えます」と述べています。

また契約に際しては利用規約の一部として表記するのではなく、カウントフリーについてのみの説明および同意の画面を表示し、利用規約とは個別でユーザーの同意を得る手順を踏むなど、細心の注意を払っている様子が伺えます。その上でさらに「懸念が発生した場合は誠意を持って対応します」とも発言しており、今後の議論の余地も残したかたちとなりました。

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契約の際はしっかりと利用規約やカウントフリーについての説明を読もう

なお、「カウントフリー」の対象アプリやサービスは今後も増えていく予定で、すでにLINEミュージックなどがその候補として挙がっています(導入時期は未定)。一方で他社のMVNOなどが同様のカウントフリーを導入した場合、LINEがパートナーシップを組むことはあるのかという質問に対してははっきりと「ない」と断言しており、「LINEは他社でも使えるので中立性は保てる。問題はない」としていますが、この点についても今後議論を生む可能性があります。

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カウントフリーの識別はMVNEを担当するNTTコミュニケーションズの設備が自動で行う


■LINEモバイルのカウントフリーは「良いカウントフリー」なのか
MVNO各社がさまざまなサービスやプランで競争する中、通信の中立性という法整備どころか議論もほとんど進んでいない微妙な"ライン"に食い込む「カウントフリー」を前面に打ち出してきたLINEモバイル。しかしその導入へのアプローチは非常に慎重で用意周到に時期を見計らっていたようにも感じられます。サービス開始までにMVNO参入を発表してから半年以上もかかった理由もまた、その点が関係している可能性もあります。

使い方によってはネットワークの中立性や秘匿性を脅かし、悪用の危険性すらはらんでいるカウントフリーですが、LINEモバイルはどこまでその健全性を維持・主張できるのでしょうか。そもそもSNSという「情報で形成されるコミュニティ」がターゲットであるだけに、その取り扱いについては先に挙げたポケモンGO関連のカウントフリー通信サービス以上に物議を醸すかもしれません。

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もはや生活インフラの一部と言っても過言ではない「LINE」。それだけに通信の安全に対する姿勢が問われるだろう


記事執筆:あるかでぃあ


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