ファンと作るMVNOとは。ライバルのIIJも参加したケイ・オプティコムが主催するファンミーティング「第1回『mineoファンの集い』」を写真で紹介【レポート】


ケイ・オプティコムとIIJ、MVNOのライバル企業が手を組む理由とは?

ケイ・オプティコムが仮想移動体通信事業者(MVNO)サービス「mineo(マイネオ)」( http://mineo.jp )の利用者を対象としたファンミーティング「第1回『mineoファンの集い』」を開催しました。

大阪で7月30日に、東京で7月31日に開催され、それぞれ約100名のmineo利用者のほか、同じくMVNOによる携帯電話サービスを運営しているインターネットイニシアティブ(IIJ)の関係者もゲストとして参加し、それぞれに忌憚のない意見交換が活発に行われました。

ケイ・オプティコムはこれまでにも20名前後による小規模なファンミーティングを数回開催しており、ユーザーからのフィードバックやアイデアの募集を行ってきましたが、約100名ものユーザーを集めた大規模なものは今回がはじめて。こうしたユーザー向けのイベントはIIJなどでも実施されており、MVNOユーザー間での盛り上がりも感じられる流れとなっています。

本来ライバルとなるIIJの関係者をゲストに呼んでいる点に驚きを隠せませんが、両企業の関係やMVNOの現状はどのようになっているのでしょうか。今回は東京会場に参加してきたので、ファンミーティングの模様を写真とともにご紹介します。

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mineoのスローガンは「Fun with Fans!」。ユーザーと共に成長をめざすケイ・オプティコム


■本音同士がぶつかり合う質疑応答
「面白さは人と人とのアイデアを掛け合わせることで生まれると思っています」。ファンミーティング冒頭でそう切り出したのはモバイル事業戦略グループでグループマネージャーを務める上田晃穂氏。プレゼンのスライドには「ユーザーと一緒にmineoを創っていく」と書かれた資料が映し出され、これまでも同社が一貫して掲げてきた方針を強く繰り返しました。

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モバイル事業戦略グループグループマネージャー、上田晃穂氏


ケイ・オプティコムは関西電力グループで長く固定通信サービスなどを提供していることから関西では知名度もあり、MVNOサービスのmineo事業も認知度が高まっているものの、関東などの日本全国区ではまだまだ低いとのこと。そのため、今回のファンミーティングを足場としてさらに強く事業展開していきたいという思いを語り、安さばかりが強調され、自己責任が強いMVNOというイメージからの脱却をめざしたいとしています。

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MVNOだからこそ、MNOにはできないやり方がある


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認知度は着実に上がってきてはいるがまだまだ伸びしろは大きい


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mineoはMVNO市場全体のシェアではまだ6位ではあるものの、純増数ではトップ争いを繰り広げるほどに


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安くてサーポートの充実した「第3極」をめざすmineo


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mineo同様に低コストで高付加価値をめざす企業は今後増えていくと予想


ファンミーティングの多くの時間は参加者との質疑応答に割かれましたが、そこで切り出される質問の中には法人向けサービスの展開予定についてや7月にNTTドコモが発表したSIM発行手数料の徴収に対する対応についてなどがあり、まるで企業向けの発表会のような雰囲気に。

登壇したモバイル事業戦略チームチームマネージャーの森隆規氏も「関西ではもっと砕けた内容の質問が多かったのですが、関東のファンのみなさんはとても真面目ですね」と笑う場面もありました。

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モバイル事業戦略チームチームマネージャー、森隆規氏


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質疑応答に耳を傾ける参加者の表情はとても真剣だ


上記のNTTドコモのSIM発行手数料については「正直痛いが現在は企業努力で吸収できないか検討中。料金に反映させないように努力したい」とし、これまで通りの価格を維持することを強調。しかし、流動的な現在の状況に不安の色も見せるなど、通信回線を借り受けて事業を行うMVNOの運営の難しさを垣間見せる場面もありました。

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来年2月に渋谷にオープンする直営店。mineoの認知度を上げるのと同時にMVNOの分かりづらさや導入までの敷居の高さを払拭するのが狙いだ


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場所は渋谷センター街に入ってすぐの「一等地」になる予定


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1階がカフェで2〜4階が申込スペース。「お茶のついでにふらっと契約でも……」と森氏が冗談を飛ばし会場が沸く場面もあった


この他、質疑応答ではやはり回線速度や快適性についての質問が多く出され、最低速度のアップを望む声には「別プランなどを用意するなどの対応は検討したい」とし、現在トライアルが実施されている「プレミアムコース」についても「利用者を限定することで回線を確保する方法なので、抽選にせざるを得ない。(利用者全体の)1%を切るかどうかというあたりで。サービスの品質との兼ね合いで頭を悩ませている」と応えるなど、本来企業があまり語りたがらない内情を吐露することも。

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専用帯域を確保することで速度アップを図った「プレミアムコース」。現在は無料トライアル第2弾が実施されており正式なサービス開始は9月を予定している


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左がプレミアムコース、右が通常コースでの速度テスト結果。プレミアムコースは十分に高速と言えるだけの速度が出ている


■「兄貴分」のIIJmioがmineoに物申す!?
ファンミーティング後半にはIIJにてMVNOによる携帯電話サービス「IIJmio」を担当する佐々木太志氏と堂前清隆氏がゲストとして登壇し「mineo×IIJmioトークセッション」が開かれました。

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左から佐々木氏、堂前氏


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森氏、上田氏との対談形式で行われた


トークセッション冒頭、森氏が「IIJは技術で信頼できる素晴らしい会社。IIJが長男でmineoは虎視眈々と上を狙う末っ子みたいなもの」と語ると、堂前氏がすかさず「それは言い過ぎ」と謙遜し笑いを取りつつも「(MVNOを)au回線でやるの!?とびっくりした。今後手強いライバルになっていくのではないか」と真剣な意見で返していました。

ケイ・オプティコムとIIJはともにMVNOという市場でのライバル関係にありながらこのようなファンミーティングでの交流を持つことについて、上田氏は「広く(MVNO)業界を盛り上げていく仲間」という立場で連携を取っていることを語り、「競合ではあるが市場が大きくなっていくことは歓迎なので、ファンミーティングや総務省への要望などを一緒にやっていく意義は大きい」とそれぞれのシナジー効果への期待の大きさも強調していました。

MVNO市場の今後についての対談では海外の動向などにも話が広がり「(国内でも)差別化が難しくなってきている。しばらくは順調に伸びていくと思うが、世界でも15%前後で頭打ちになっており、その先は苦しい時代になると思う。MNOから何かしらを勝ち取っていく必要があるだろう」と、より明確に安さ以外のメリットの必要性を主張。

また堂前氏は「重要なのはもっとお客様の近くにいること。大きな企業になればなるほどお客様との距離が離れていくが、そこは歯を食いしばって頑張りたい。みなさんの視点、みなさんのニーズと自分たちを常に合わせていきたい」と、MVNOの在り方についても言及していました。

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それぞれの企業が描くMVNOの未来は決して楽観的なものではない


■基地局シミュレーター1台で○○○○○が買える!?
トークセッション最後には各社の端末対応状況のチェック方法などについての裏話などが披露され、「うち(mineo)は泥臭くひたすら実機を調達してやっている。iPhone 6sなどは発売日に中国系業者による割り込み騒動に巻き込まれて購入できず大変だった」といった直接取り扱っていないMVNOならではの苦労話も。

またIIJが導入しているという基地局シミュレーターについても話が及び「緊急地震速報や災害情報の取得チェックなどに使える便利なものだが、1台でフェラーリが買える。うちはこれよりフェラーリを買いたい」と語ると会場は爆笑に包まれました。

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「フェラーリが買える」という基地局シミュレーター


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実際の基地局からの電波をシミュレートした信号を発信しSIMフリースマホなどで緊急地震速報などが正しく受信できるのかをチェック


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同じ機種でもOSのバージョンなどでの違いをチェックしなければいけない


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かつてのPHS事業「アステル関西」時代の電波暗室が今も活躍している


ファンミーティング最後は登壇者やmineoスタッフを交えての懇親会。1時間ほどの立食パーティーでしたがみなさんモバイル関連の会話が尽きない様子でした。

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懇親会の様子。運営スタッフと直接話ができる機会はなかなかない


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美味しそうな料理の数々


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もちろん筆者は取材があるので食べられない……


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懇親会最後にはiPhone 6s(16GBモデル)を賭けたジャンケン大会も


■mineoがめざすMVNOの「在り方」とは
MVNOという事業が一般に認知され、広まり始めたのはほんの数年前からです。1年前にはその名前すら知らなかった人も少なくはないでしょう。その上、MVNOという言葉は知っていても、実際そこで何ができるのか、いわゆるNTTドコモやauのような大手携帯電話会社(移動体通信事業者=MNO)とは何が違うのかを正しく理解している人はさらに少なくなると思われます。

ケイ・オプティコムに限らず、最近ではIIJやその他MVNOでもファンミーティングを活発に行う傾向があります。その意図は当然ながらMVNOに対する認知度の向上やユーザー層の拡大への期待がありますが、それ以外にもユーザーからのフィードバックやユーザーの理解度を高めることで批判や苦情を減らすといったリスク回避の意味もあります。

MVNOはそもそもがMNOからの回線の借受によって成り立つ事業だけにリソースには限界があります。その限られたリソースの中でどこまで快適で便利なサービスを提供できるのか、どこまで安価で安心できるサービスを構築できるのかという点は、恐らくMVNOが今後も突きつけられ続ける課題ではないでしょうか。

今回のファンミーティングを通して感じたことは、MVNOという事業に対してユーザーのみならず事業者自身が大きな期待を抱いているという点です。

ファンミーティングの最後に、上田氏が「大きな声では言えませんが、実はこの事業、まだ赤字です」と打ち明ける場面がありました。今年の6月でmineo事業は2周年を迎えましたが、赤字が続く中でもファンを集め、ファンとともに事業を盛り上げていこうという姿勢には、強い決意のようなものも感じます。

MVNO市場は既に乱立の様相を呈しており、今後は同業他社との競争も激化していくものと予想されます。そのような中でどのようにしてmineoを選んでもらうのか、mineoを選んでよかったと思ってもらうのか。

IIJもまたトークセッションでMVNOとしての在り方を語っていましたが、ファンミーティングという場を通してケイ・オプティコムがめざすMVNOの在り方もまた見えてきたような気がしました。



記事執筆:あるかでぃあ


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