ワイヤレスジャパン2016:移動体通信のキーワードは「5G」と「災害対策」(後編)!KDDIなどが高速・大容量通信を支える新技術を展示【レポート】
無線通信技術の裏側、知ってますか? |
東京ビッグサイトにて2016年5月25日(水)から27日(金)まで無線通信技術を中心とした技術展示会「ワイヤレスジャパン2016(WIRELESS JAPAN 2016)」が開催されました。
前回の前編ではNTTドコモと共同開発を行うパナソニックや三菱電機といった通信機器メーカーによる「5G」への取り組みを中心にレポートしましたが、後編ではNECやKDDIによる災害対策や通信機器認証を行う企業であるTUV SUD(テュフズード)を中心にレポートします。
万が一通信インフラが破壊された時、どう対処すべきか
■独特な切り口で通信技術の活用法を提案するNEC
NECと言えば以前はパソコン(PC)や携帯電話の雄といったイメージでしたが、ここ数年は無線LAN(Wi-Fi)をはじめとした通信機器メーカーとしてのイメージが強くなりつつあります。今回の展示会でも5Gへつながるさまざまな技術を展示していましたが、ひときわ異彩を放っていたのが「インフラレス通信Box(ILC-Box)」と名付けられた小さな通信装置です。
ILC-Boxは無線LANによる通信ネットワークを構築する機器で、バッテリーを内蔵していることから電源のない場所でも動作が可能です。複数台のILC-Boxを用いることでマルチホップ型のネットワークを構築し、限定的な通信エリアを確保することができます。
一時的な通信ネットワークへの要望は少なくないと担当者は語る
閉じられたネットワークの活用法としては、災害時の緊急連絡手段や大規模工場・物流倉庫などでの一時的なインフラ整備があります。ILC-Boxにはストレージが内蔵されており、通信が寸断するような不安定な環境でもデータをバッファして通信が再開される機会を見つけて間欠的にデータ転送を行います。
また機器間の通信経路は自動で設定されるため、機器の移動や増減があっても前述のストレージ機能と合わせて通信データが通信不能で発信者へ送り返されるといった問題がありません。LANポートなどを利用すれば外部ネットワークとの接続も容易なので、クローズド環境以外にも活用できます。
ILC-Boxの最大の強みは導入コストの低さと敷設の簡便さです。工場などでは一時的な社内ネットワークを構築する必要がある場合が多く、そのたびに有線網を整備するのはコストも時間もかかります。また災害時などの緊急通信手段としても、避難エリアで通信インフラが断絶した場合などでもILC-Boxへ一時的にデータを収容し、そのまま通信可能なエリアまで物理的に搬送してからデータを受け取るといったことが可能です。
現在はまだ開発中で、展示されていた本体もまだまだ改良が必要とのこと。サイズは展示されていた仕様では200mm×130mm×54mmと比較的コンパクトで重量も1kg前後ですが、今後は災害時の利用用途を想定してアンテナや各種端子部の物理的な強化などを図りたいとのことでした。
価格は30万円程度を想定しているとのこと
■通信キャリアの強みを生かした提案を数多く展示するKDDI
KDDIブースでも5G技術から災害対策まで幅広く展示。5G分野ではTokyo techやSONY、JRCと共同開発したミリ波(40GHz帯および60GHz帯)を利用したワイヤレスネットワークの実証実験などを紹介しました。
他社と比較して非常に幅の広い展示内容だったKDDI
ミリ波の実証実験では市販のスマートフォン(スマホ)に専用の通信モジュールを接続。アンテナが配置された施設内で実際に歩いてデータの送受信を行い、通信速度は最大で実測6.1Gbpsを達成したとしています。
中央にあるのが実験で用いられたアンテナモジュール
アンテナは街灯や電柱などにも取り付けられる程度の大きさ
前編でも解説したように、60GHz帯などの高い周波数帯域の電波は直進性が高く(≒回折性が低い)距離による出力の減衰が激しいため、有効通信範囲が10m前後と極端に短い特性があります。KDDIの実証実験でもアンテナは人が通行する路面に隣接するように配置されており、現実の利用用途を考えると街頭や公共施設などでの限定的な利用になる可能性があります。
KDDIのアンテナモジュールは電波干渉を防ぐために敢えて電波が拡散せず直進するように設計されていますが、こちらは今後の利用用途に応じて設計を変えていくとのことでした。
実験に用いられた端末はXperiaシリーズ
背面に取り付けられた通信モジュールはまだ巨大
電波の特性上移動しながらの通信に不向きであることから、KDDIでは寸断のないシームレスな通信よりもデータの送受信状況を端末側で制御して随時データを細かく送受信する「バケツリレー」型を想定しているとのことで、寸断のないシームレスな通信確立に注力するNTTドコモやその機器開発を行うパナソニックなどのメーカーとはスタンスの違いを感じました。
アンテナ部。5年後にはスマホに組み込まれることになるのかもしれない
KDDIは次世代通信規格に注力する一方で、災害対策についても提案的な展示を行っていました。
通信インフラが破壊された場合のアプローチとしてNECではバッテリーとストレージを内蔵した無線LAN機器によるネットワーク構築を提案していましたが、KDDIも同様の手法を紹介。避難所などにバッテリーや簡易サーバ、無線LANなどを搭載したメッセージ保管装置を置きデータを集積、無人航空機などでそのデータを回収するという仕組みです。
災害時に特化したシステムであるため、Eメールや画像データなど優先度の高い情報の移送を前提としている
避難所などの上空で無人航空機を旋回させデータを回収する
展示されていたメッセージ保管装置は既存製品を組み合わせた仮組状態。製品化を目指しここからブラッシュアップしていく
展示ではデータ回収用の無人航空機としてマルチコプタ(ドローン)が置かれていましたが、連続飛行時間や航続距離、法的な利用区域などで制限が多く、まだまだ実用的ではないとのこと。現在は通常のエアプレーンタイプの無人航空機による運用を想定していますが、今後の法改正やマルチコプタの性能向上に期待したいとのことでした。
マルチコプタの進化と発展が今後の災害対策のカギに
このほかにもKDDIは可聴音や非可聴音を用いた情報送信システム「サウンドインサイト」を展示。可聴音の場合「ピロピロピロ……」という緊急情報のジングルのような音を発信し、その音を専用のソフトウェアを搭載した端末で受信すると必要な情報を得られるというもの。
具体的には、発信音が符号化された短いデータ(ID情報)そのものとなっており、そのID情報を受け取った端末が内容に従ってソフトウェア側で設定された言語設定や情報設定と共にクラウドサーバへアクセス、そこで処理されたウェブサイト情報などを端末に表示します。
可聴音通信技術の新しいアプローチ
サウンドインサイトの最大の利点は導入コストの低さです。情報の発信に特別な機器を必要とせず、既存のスピーカーシステムで全て行えるため、市町村が保有する広域スピーカーなどでも情報を送信することが可能です。また専用のソフトウェアもスマホアプリとして無料で提供する予定とのことで、利用者側の負担もほとんどありません。
既存の緊急地震速報システムなどで利用できる
また、デジタルサイネージ向けとして非可聴音(20KHzの音)を利用することもできます。こちらはスピーカーの種類を若干選びますが、一般的なデジタルサイネージ端末やモニター付属のスピーカーなどであればほぼ問題なく使えるとのこと。
音がしないために静かな公共施設などでも使えるのがメリットですが、実際にデジタルサイネージを利用している企業にヒアリングしたところ、音が出る方が注目度が高く視覚障がい者の方にも利用してもらいやすいといった声もあり、KDDI側としても用途の新しい発見があったとのことでした。
データ送信音をそのまま災害情報発信時のジングル音に使えるのもメリットの1つ
受け取ったIDを端末の設定と共にクラウド処理してから端末へ情報を送り返す仕組みなので、同じ情報を発信しても端末ごとに表示する情報や言語を変えることができる
■無線通信機器には必須の認証企業、TUV SUD
最後に、日本国内において無線通信機器を扱う上で必須となる機器認証を行っている企業、TUV SUD(テュフズード)を紹介します。
生活に深く関わっているがほとんど知られることのない企業でもある
日本で無線通信機器の認可を出しているのは当然日本政府ですが、その認証試験や認証そのものは認定された一般企業に委託しています。TUV SUDもまたその認定を受けた認証企業の1つです。日本国内で無線通信機器の試験や認証を行う企業や機関は他にもいくつか存在します。
そもそもはドイツの企業であり、圧力容器(ボイラー)の安全試験を行う企業として始まりましたが、その後さまざまな安全試験や認証試験をてがけ、現在では世界30か国以上、800以上のネットワークオフィスを展開する企業となっています。
日本で販売される無線通信機器は必ず既定の認証を受けなければいけない
機器認証以外にも端末の評価試験のみでも利用できる
ドイツをはじめヨーロッパ諸国ではTUVのロゴは安全のシンボルマークとしても有名で、その高い評価ゆえにロゴシールがコピーされ模造品などに利用されてしまうという問題まで発生するほどだとか。日本ではまだまだ認知度が高くないため、こういった展示会での広報活動にも力を入れているそうです。
ブースではTUVのロゴが入ったボールペンを配布していた
■未来と現在を模索するモバイル業界
モバイル業界各社の動向は高速・大容量を謳った5Gを強調する一方、大規模災害を想定したエマージェンシーツールの提案にも力を入れている印象でした。地震だけでなく火山や台風、突発的な豪雨など自然災害の多い日本だけに、通信インフラと災害対策は切っても切れない関係にあると言えます。
ドローンやロボット技術の向上もめざましく、如何にそれらの技術と無線通信技術を融合させるのかについて、各社の模索する姿も多くみられた展示会だったように感じます。
記事執筆:あるかでぃあ
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